オフィスの電話が鳴った。
日本人の習性として電話を取って社名を名乗ったのだが、相手(若い女性)は私の名前を尋ねてきた。
ネパールでは、電話を掛けてきたくせに「これどこにかかった?」とか「アンタ誰?」と聞いてくるのは別に普通なのだが、この相手は直訳するなら「あなたのお名前はなんですか」と開口一番言ってきたのである。
いやいや、どこの誰だかもわからないアンタに名前を言うなんてそんなめんどくさいことしませんて。
うちの会社に宛ててかけてきたことには多分間違いがなく、でも私の名前が知りたいとなると、やはり本名を言わなければいけないし、そうなると相手は聞きなれない日本の名前を3回は聞き直してくるだろうし。
そこで、逆に相手が何者か聞き返したら、数日前にご丁寧にも営業のアポを電話で取ってきた航空券卸業者だった。ここは最近見るようになった会社だが、最初からえらく立派なオフィスを複数持ったり、派手な宣伝を打ったりしているので、新進大手でビジネスマナーができてるのね、と思っていたのだが、そういわれてみればアポは日曜の午後で、今は火曜の午後。別に待ってもいない営業だったのですっかり忘れていた。
ああ、この子が電話してきたな、と思いつつ「あなた日曜日に来るってこなかったよね」と言ったら、しゃあしゃあと
「そうです。日曜日は雨が降って行けなくて」
来られなかった代わりにメールでレートを送付するのに、「宛名」の私の名前を聞きたかったというわけらしい。 Dear Sir/Madam でいいから。そんなことより、アポ取っておいてすっぽかす方がよっぽど失礼なんじゃ?
しかも「雨」かよ、と吹き出しそうになったのだが、冷たく「じゃあレートをメールで送っといてね」とだけ言って電話を切った。名前なんて教えてあげませんとも。
さらに思いだすと、日曜日はかんかんに晴れていて息子は午後プールでまっ黒になって帰ってきたっけ。
30分経った今も相手からのメールは届かず。
昨日の晴れて暑い日とは打って変わって、今日は昼前から降り出し止む気配なし。
長袖を着ていてもなんだかうすら寒く、これからの長い雨季を思うとただただユーウツになってくる。
しかし、一階入り口開けっぱなしのこのオフィスから外を眺めると、歩く人の傘を差さない率の高いこと。特に男性。
今は大降りしていないものの、小雨というにははばかられる降り方である。私だったら、いやここが日本だったら100%傘を差す、傘がなければコンビニで買うような降り方だ。
ツーリストはまだ解る。トレッキング目的で来る人々は山を歩くのに邪魔な傘じゃなくレインウェアである。フードをかぶっても顔に雨が当たると思うが、欧米の人は気にしないらしい。高そうな靴も100%濡れるが、そのくらいの防水はあるのだろう。
この時期の気候を知ってか知らずか、傘なんて持って来ない(もしくは来なかった)のは、まあそうかもな、と思える。
が、ネパールの男子は何なのだ?
顔に雨が当たろうがバイクに水を引っかけられようが、ちょっと顔をしかめながら片手をポケットに突っ込み、もう一方の手の携帯で誰かと大声で話しながら歩いている。で、それが日本語でいう「土砂降り」になると、さすがにそんな無理はせず、そこらで雨宿りするわけですね、はい。
以前までは、傘というものがあまり普及していなかったような気がする。多分高い上に粗悪品で(みんな壊れた傘しか持っていなかった記憶がある)、雨季でもカトマンズあたりなら1日降り続くことはあまりなかったので、まあなくても何とかなる物だったのだろうか。
が、今は中国製品が多く流通するようになり、値段も決して高いものではない。中国から「流れてくる」品物だから、質が悪いことには変わりないのだろうが、多少骨が曲がったところで使えるものだし、「傘直し職人」も今時期は街を流しているのだから、一本持って損はないから買っときなよ!と、道行く人に心の中で訴えてしまう。
以前いたスタッフがこの傘を持たないヤツで、本降りの時に外出の用があると「雨が止んでから」とぬかしおったものである。「おまえは南の島の大王か!」と喉元まで出かかるのを、優しく「傘買ったら?まだ雨季は長いから」にすり替えると、「家に置いておくとなくなる」だった。つまり家族も客人も多いので、いつの間にか誰かが持って行ってしまい戻ってこない、ということで、何本あっても足りないから、と言いたかったらしい。類推すれば、それは彼の家だけでなく、銀行だったり取引先でも同じで、しかもキミ自身も忘れっぽいからね・・・、とそれ以上促すのをあきらめたのだった。
何しろ長い雨季である。昔と気候が変わって来ていて長時間降り続くことだって珍しくない。
傘の一本で時間と行動が変わるのだから、持っとけ、キミたち。
・・・と、思ったら息子が帰って来た。朝忘れないように念を押したので、ちゃんと傘は差しているが、なぜか髪と服は濡れている。我がネパール男子の「差さないワケ」を問い詰めてみるとするか。
今日の
Kathmandu Postより、月毎の最低賃金をRs.8000(約$91.50ドル)に設定することで三者(労働者、政府、貿易組合)が合意した、という話である。
昨年がRs.6200だったので、実に約30%の上昇。
「じゃあこれまでみんなどんだけキビシイ生活してたんだよ!」
とか、
「これほんとにみんな払ってもらえるの?」
とか、
「月毎って、合計で何時間の労働?」
とか、
「うち30%も利益前年より伸ばしてない(涙)」
などなど、疑問とツッコミは果てないが、
そうはいっても諸外国からみれば「たったの$100足らず」、ちょっと前の日本からすれば「7000円ちょい」の額に過ぎないのだ。
とにかく現物のお金が世の中を回って、みんながちゃんと働いて、もっと暮らしが豊かになって、それが都会だけでなくネパールの端っこの方にも広がることを願うのみである。
今日は早朝から雨音で目が覚めるほどの大雨。
9時頃には上がって晴れてきたので、空気はキレイだがえらく蒸し暑い1日だった。
そんな蒸し暑い日に外出だったからなのか(言い訳ともいう)、いつも以上にボーっとして歩いていたらしい。
ニューロードで道を渡ろうと横断歩道にさしかかったとき。
いきなり後ろから肘をふわっとつかまれ、えらく体格のいいおばちゃんが横断する誘導をしてくれた。何も言わず、振り向きもせず。
渡りきったところで、そっと手を離してくれた後ろ姿に”Thank you"と言ったら、初めて振り返って微笑み返してくれた。
信号も歩道橋も、あるけど無いと言ってもいいくらいのネパールだから、実はこの「道を渡るときに知らない人でも摑まえて誘導する/摑まって誘導してもらう」というのはしばしば見かけることである。
ただ、誘導されているのは小さい子供かゆっくりとしか歩けないお年寄りなのだが、私は何に見えたんだろうか。ちゃんと横断歩道だったし、人も多かったので、流れに乗って歩けば難なく渡れる道だったのだけれど。
さておき、ピポピポと急かされる音より、肘をつかまれる方がなんと心地よいことか。
赤と緑の電灯がネパールに広まるのは、こんなおばちゃんが生息する限りまだまだ先のことかもしれない。
なぜなら、くだんのおばちゃんも、実は私よりうんと若いはずですからね。
さっきタメルを歩いてたらこの辺では見かけない子。
でも、「おなかすいた」とか「ビスケット買って」とかいいそうな子だな、新参者?と思ったら案の定ぴょこぴょこくっついて来た。
「Namaste~,Ma'am」
と恥ずかしそうに声をかけてくる。
「give me...」
あたりからか細い声がますます弱気になってきた。
「ファ~イブ・・・」
そうそう。最近物価が高くなったから、コドモでも「1ルピー」なんてかわいいことは言わなくなったのよね~。
「ハ~ンドレッド・・・」
えっ?そりゃまた思い切った。
ダメでもともと、ヘタな鉄砲ものネパール人精神はこんなに小さい時からあるのかあ。
「ダラ~・・・($)」
あげませんよ?それって、公務員の課長級の月給より高いから。
ホントにぷーっと吹き出しそうになった。
これまでいわゆる「物乞い」された中では、この$500がダントツ高額一位である。
しばらくは不動の一位に違いない。